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サブプライムローン問題以外でも、報酬は過剰リスクの温床になる危うさを秘めている。
しばしば問題視されるのが、為替や金利のディーラーなどの報酬だ。
例えば日本で外資系金融機関は、ディーラーの報酬を利益連動にしている。
基本給を1000万円としても、ほかに上げた利益に連動して業績報酬を上乗せする。
ディーラーにとってみれば、リスクを取って高い利益を上げれば年収が大幅に増える。
若くして1億円を超えるような年収も夢ではなくなる。
リスクを取って失敗しても、最低限の1000万円の保証がある。
それは一般企業の従業員の給与から見ると高い水準だ。
もちろん失敗すれば次の年に雇用はきれないかもしれない。
しかし、そのディーラーは人材斡旋会社を通じてほかの外資に転職すればいい。
大穴をあけたディーラーでも、人材派遣会社は「優秀なディーラーです」と別の外資の高給の職を斡旋する。
その方が人材派遣会社の取り分も増える。
前の会社はディーラーの実力を知っていても、口外すれば会社が大きな損失を被ったことがわかるので、沈黙を守る。
こうして実力がなくてもディーラーはほかの会社に移り、移った先でまた同じように高いリスクを取って高い利益を得ようとする。
最初に入ったのがG・Sであれば、次にJPM・C、その次にドイツ銀行、その後HSBCといった具合に、転々と会社を変えながら会社のお金でリスクを取りつづける。
そのうち1回でもハイリスクの投機が当たれば、ディーラーは何億円も手にすることができる。
利益連動の報酬体系は、そうした形で金融機関をリスクに陥れやすい面がある。
一方、経営トップの行きすぎた業績連動報酬は、金融機関そのものをリスク漬けにする恐れがある。
経営者は利益を上げることが目標で、上げた利益に応じて報酬を受け取る。
これには3つのリスクを抱え込む危険が伴う。
まず、ハイリスクに走りやすいリスクだ。
高いリスクを取って利益を増やせば、何十億円もの年収が得られる。
本来的にはリスク・リターンをよく精査してブレーキをかける必要があるが、ブレーキをかければ自らの年収は増えない。
多少のリスクには目をつぶってもGOサインを出す体質を、生みやすい。
次に利益のために望ましくない取引をしがちになるリスクである。
サブプライムローンは、専門家なら少し考えれば貧しい人々をだまして儲ける仕組みであることは明らかだ。
しかしそれで巨額の収益が得られるのなら、貧しい人をだますことの是非には踏み込まないで黙認する。
それはサププライムローン問題で、多くの経営者がはまったわなだった。
そして競争力の低下リスクもある。
会社の利益を増やすには従業員の賃金を下げればいい。
しかし賃金を下げ、事業をアウトソーシングしていけば、従来からの従業員が働く意欲をなくしていくのは明らかだ。
賃金を下げれば、その瞬間は企業の利益は上がるが、モラールの下がった従業員を抱えて利益を上げつづけるのは難しい。
長期的な競争力は下がっていくが、自分が在任中に多くの報酬さえもらえばいいと考える経営者にとっては、長期的な視点はどうでもよかった。
報酬に目がくらんだ経営者が、会社の金で一捜千金の報酬を求めるパンカーを使って実施する金融ビジネスは、超ハイリスク・超ハイリターンの危険極まりないビジネスである。
そんな構図の中で手がけられたのがサブプライムローン業務で、そこで蹴麗した人々の姿は、高い規律が求められた従来のパンカーとは全く異なるものだった。
パンカーは強欲の塊になり、その達成のために人々をだましやすい金融工学を利用した。
そんなリスクテークの連鎖が限界に達して逆回転し始めたのが、金融危機の真相だった。
金融機関の報酬に関しては、日本の不良債権問題の際にも問題視されたことがある。
公的資金の投入にあたって金融監督委員会は、投入行に経営健全化計画の提出を求めた。
店舗の削減、人件費削減などの計画を盛り込ませ、その達成状況を監視した。
国民の税金である公的資金を投入する以上、無駄使いをさせてはならないからだ。
公的資金投入前の日本の銀行の給与は、一般常識からかけ離れていた。
バブル期の頭取の報酬は1億円に迫る銀行があった。
頭取、会長を歴任した場合は、退職金が近いこともあった。
規制で守られているにもかかわらず、自らを特権階級と位置付けて高給を食んでいた。
それが国民の銀行批判の背景にあった。
そうした高給をもらいながらも、その給与に見合った仕事ができず、不良債権のヤマを築いた。
そして自立再建が難しくなり、1998年、公的資金を投入される。
国からの公的資金の投入がなければ、銀行は破綻する。
それを国民の税金で助けるのだから、本来的には銀行員の年収は全給与所得者の平均以下に抑え、頭取は経営責任を取って返任するのが筋だった。
銀行は水面下で「お金を扱う業務で給料を下げすぎると、不正が横行しかねない」「銀行業は高度な業務で、一般産業の平均と比較するのはおかしい」などと抵抗した。
しかもほとんどの銀行の頭取は、責任を取らず居座った。
結局、金融監督委員会は明文化はしなかったが、公的資金投入行の頭取の報酬を役所の事務次官以下に抑えることで妥協した。
当時、事務次官の年収は、2300万円から2400万円程度だった。
そのため公的資金を投入された大手銀行の頭取(在任期聞が長かった一部銀行トップは例外扱いした)の年収は2200万円程度に抑えられた。
それを起点に専務は2000万円、常務は1800万円、取締役は1500万円、部長は1300万円といった水準になった。
金融監督庁は頭取の報酬を事務次官以下に抑えれば、全体もかなり下がると期待した。
しかし中堅の行員の年収はあまり下がらず、初代後半で1000万円を超え、一般企業平均の倍の水準だった。
国民の税金で支えてもらいながら、高給を維持するモラルハザードだった。
ただそれでも自らをエリートと自認する頭取たちは、事務次官以下の年収に不満だった。
低い年収が愚かな経営の結果で、本来なら無一文で追い出されてもおかしくないのに、役人や一般産業の社長以下の給与という状況に耐えられなかった。
そして公的資金を返すと、ある大手銀行はまず役員報酬の引き上げに着手した。
頭取の給与はあっという間に倍になり、さらに持ち株会社トップの報酬は9000万円近くに跳ね上がった。
公的資金を返したといっても、まだ法人税は払っていなかった。
利益が出ても過去7年間に赤字を計上していれば、それを利益から差し引いてもいいというルールを適用されたからだ。
もともと差し引けるのは過去5年の赤字だったが、不良債権処理を促すため7年に伸ばした経緯がある。
理由はともかく、法人として法人税の支払いという最低限の社会的責務をまだ果たしていないにもかかわらず、頭取の報酬だけは上場企業でトップクラスに戻した。
金融庁の幹部も、銀行の報酬問題には甘かった。
公的資金を返し終えてすぐに報酬を倍増させたことに関しても、欧米に比べれば報酬水準が大幅に低いから問題ではないとの考えだった。
頭取報酬を倍増させた大手銀行グループは、米国でサブプライムローン関連業務にのめり込んだ。
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